恋を忘れたアラフォー令嬢~遅咲き画家とのひとときの恋
絵は、どれも魅力的だった。
どの絵が賞を取れるとか、高値が付くとかは全く分からない。
ただ、自分が惹かれる絵が、私にとってのいい絵。
風景画もあれば、人物画、異空間や幻想的な絵まで様々ある。
どれも個性があっていいなぁ・・・
最後の画家の名前は、『井上 昇(いのうえ のぼる』と書いてあった。
この風景画・・・まさか・・・
「こんにちは」
振り向くと、白のシャツに黒のパンツ、グレーのジャケットを纏ったその人は・・・
「土手で会う・・・」
「はい、井上といいます」
眼鏡を外した井上さんの風貌に戸惑って、言葉が出なかった。
ボサボサの髪は、少し短くなり、おしゃれにオールバック風に纏められ、掘りの深さが際立つ。
眼鏡を描けていない目元は、はっきりした二重瞼で、笑うと目尻に皺が寄り、色気漂う。
そして、いつもゆったりした上着を着てて分からなかったけど、がっしりした体にフィットしたシャツが、男らしさを引き立たせた。
「私、」
『南都』と言いかけたけど、一瞬迷って、思わず偽名を使ってしまった。
「私、田中弥栄子です」
「田中さん、そうでしたか」
「出来上がったんですね。あの時の絵が、こんなに素敵に仕上がるなんて」
油絵を使った絵は、スケッチの時より魂を吹き込まれたように、情景が浮き出てくるようだった。
心打たれる絵に、感動した。
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