恋を忘れたアラフォー令嬢~遅咲き画家とのひとときの恋
「では、これで失礼します」
「何のお構いもしませんで。また来週お待ちしてます」
「はい、また来週」
井上さんが手を振って、見送ってくれた。

私は油絵の道具を一式揃え、それから毎週土曜日に、井上さんのアトリエに通った。
その甲斐あって、ようやく完成に近づいた。
「今日で完成しそうですね」
「そうですね。ようやく、ここまで来ました」
私は、絵を描く準備をして、白生地に紫のラベンダーと赤い薔薇が描かれているシュシュで、無造作に髪を纏めた。
油絵で描く絵は、色鉛筆で描いた絵より、幻想的に出来上がっていた。
「出来ました!」
私が、井上さんを見ると、微笑んで近づいて来た。
「凄くいいですね。あっ、もう少し色づけしましょうか」
井上さんは自分の椅子を持って来て、私の後ろに座った。
「ここにもう少し、黄色を薄く塗りましょうか」
私が筆を持って塗ると、
「ちょっと、貸してみて。ここはこういう風に・・・」
私の筆を持つ手を、上から大きな手で包み込み、ゆっくりと色を付けていく。
「そう、ゆっくりですよ」
手の動きとは真逆に、私の鼓動は激しく打ち付け、息が出来ないほど、ドキドキしていた。
「こんな感じかな」
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