恋を忘れたアラフォー令嬢~遅咲き画家とのひとときの恋
夜になり、早速、兄さんに報告した。
「兄さん、私、パリに行くわ。部長の昇進、無くなったんだ」
「そうかぁ。じゃあ、いつから行ける?」
「1ヶ月後には、日本を発ちたいの」
「分かった。それでこちらも進めるよ」

翌日会社に行くと、役員室に呼ばれて、説得されたけど、既に他社が決まってると、押し通した。
課員の子達は、これからどうしたらいいかと、泣き出す子もいた。
「ごめんね。最後まで支えてあげられなくて。でも、皆なら、私が居なくなっても大丈夫だから、自信持って」
唯一、残された課員達だけが気がかりだったけど、今まで私のスキルを叩き込んだから、自信さえ持てば、この子達ならきっと大丈夫だ。

そして、私の気がかりなのは、あと1つ…
彼と知り合った土手に向かう。
ぼさぼさで眼鏡を掛けた彼。
昨日の事のようだ。
そして、彼のアトリエの近くに行き、遠くから眺めた。
「頑張って」
届かない声で応援した。

自身満ちあふれた彼は、とても素敵な男性へと変身した。
あれならきっと、私よりもっと素敵な女性が見つかる。
寂しいけど、幸せになって欲しい…
すると、玄関のドアが開き、彼が出てきて、私は思わず、木の陰に隠れた。
彼は、天を仰ぐように、両腕を上に挙げ伸びをし、そして、また家の中に入って行った。
良かった。元気そうで。
やっぱり、まだ胸が痛む。
私は、振り向くこと無く、前を向いて歩いた。

そして1ヶ月後。
私は日本を発ち、フランス、パリへと出発した。
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