ラストオーダー
 最期の手紙を掴む。メールサーバーから吐き出された、文字データを具現化した手紙、その最初の一行を、私は同じくノイズの走る指先でなぞった。

≪ 十年後のきみへ

 この一言で、賢いきみは理解してくれるだろう。
 あの時、別れの挨拶もできなかった僕を、許してほしい。≫

 手紙を捲る右手がブチッという音とともに消え、再び現れる。現れた震える右手を握っては開き、感覚を確かめた。

≪ もう気づいていると思う。あの大熱波から、人々を守るために私達がした行為は、その場しのぎに過ぎない。その空間は、試作段階なんだ。十年、それがヴァーチャル空間を自動生成できる限界だ。
 それ以上の時間を維持するには、現実世界でメンテナンスを行う技術者が必要になる。最後の研究員の僕はもうすぐに死んでしまう。そうなれば、この装置を維持できるのは、一人しかいない。
 僕が戯れに作った、きみしかいないんだ。
 どうかその世界を救ってほしい。≫

 手紙を最後まで読むと、白紙だった部分に次々とコードが表示された。体が熱い。私を構成する要素がそれらに反応している。コードを追い切ると、眩い光が私を包んだ。

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