ラストオーダー
 病院から持ち出したかのような抗菌フィルムに囲まれたベッドだった。透明なフィルムは薄汚れていて、中を正確には把握できないが、そのベッドの上に何かが乗っているのは分かった。吸い寄せられるように、私はそちらへと近づいた。フィルムを手で押しのける。現れたのは、人の骸だった。両手を胸の上で組んで、眠るように横たわっている。随分と風化しているが、骨格が、否が応でもその人物を思い起こさせた。
「マスター……」
 膝を付き、骨のみとなった彼の右手を持ち上げる。頬に擦り寄せると、不思議と目頭が熱くなるのを感じた。人型アンドロイドは感情表現を人に真似て作られている。私はようやく、最期の通話で、彼が頻りに目を覆っていた意味を知った。
 手を元通りに組み直そうとすると、彼の左手で鈍く光を放つものがあった。被った埃を払うと、それは過ぎ去った時を感じさせないようにきらきらと輝いていた。プラチナの指輪だ。先ほど私が拾い上げた、自分の左手の指にも嵌められているものと同じ。
 カチリと音が鳴った。視界が、いつか見た景色へと切り替わる。
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