君と一番の恋をする
私は気合を入れるように胸を叩き、それから白雪姫の衣装を着た。
更衣室を出ると、荷物を抱えてせっせと歩く人や友達と話している人、準備をしている人。いろんな人が廊下を行きかっている。


「……あ」


その中で一人の男子生徒と目が合い、思わず声を上げる。
男子生徒は立ち止まってから、こっちに近づいてきた。


「おはようございます。先輩」
「……おはよう、陸人くん」



なんとなく、恥ずかしくて視線を逸らす。
高鳴る心臓に、ほんのり熱くなる身体。こんなの小学生のときに、置いてきたはずなのに。


「……先輩。白雪姫、ですか?」
「あ、うん。童話風のカフェをやっててね。陸人くんは?」


ちらりと陸人くんの姿に視線を落とす。
まるでおとぎ話に出てくる騎士のような赤いビロードのマントに、腰に差さった作り物の剣。

……かっこいい。なんて、思ってしまう。


「ああ、うちは劇なんです。クラスのやつがオリジナルの台本書いて。俺は騎士役で、あと、真由帆は姫役で———」


話し声が、だんだんと遠くなっていく。
……やっぱり、まーほ、なんだ。

何の前触れもなく陸人くんからまーほの名前が出てきて、私の気持ちはしぼんでいく。
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