君と一番の恋をする
先輩が倒れたことを知ったのは、公演が終わって10分たった10時過ぎのことだった。
衣装もそのままに急いで保健室へ向かう。
今日珍しく元気がないように見えたのは、気のせいじゃなかった。
もっと早く、気付いていれば。
息を切らして保健室のドアを開けると、そこには誰もいなかった。
正確には一番手前のベッドのカーテンが閉まっていて、先輩がいるのだと察する。
そっと近づき、音を立てずにカーテンを開けると、白雪姫の衣装で眠りにつく先輩の姿があった。
ベッドに腰掛けると良く見え、そっと顔を近づける。
―――王子じゃないけど、侑人じゃないけど。
これからは、ただの後輩でいるから。
……今だけは。
「先輩」
俺はそう呟いてから、彼女の小さい唇に自分のを重ねた。
……柔らかい。
ゆっくりと離して、起こさないようにベッドから立ち上がる。
好きになったのが侑人じゃなくて、俺だったら。
先輩が、好きになった人の好きな人が自分の妹だなんて、そんな事実に苦しまなくてすむのに。
……デートしたあの日。一瞬でも諦めようと思った。
だけど、やっぱり無理だ。
なあ、先輩。
俺にもう一度、チャンスをくれませんか。