君と一番の恋をする
そのまま沈黙が1分ほど続き、そろそろ話さないとまずいんじゃないかと思い上を見上げたとき。
奏太くんの真剣そうな表情が、目に入った。
そして、それは一瞬誰かに重なって見えて。でもそれが誰なのかは分からない。


「……あの、奏太くん」


あ、待って今、昔からの癖で“奏太くん”って呼んでしまった。
学校なんだしそもそも高校生なんだから、“早瀬くん”って呼べばいいのに。
だけど、彼は私の“奏太くん”に顔をあげてくれた。


「ごめん。ちょっと、いろいろ考えてて。呼び出したの俺なのに、ごめん」
「ううん。そんな、謝らなくても」
「いや、俺が悪いから」


奏太くんは一呼吸置いて、口を開いた。


「実は麻里花には、文化祭の宣伝動画に出てほしいんだ」
「宣伝動画?」



私たちの通うここ、等花高校では毎年11月に文化祭が行われている。
クラスだけじゃなく部の出し物もあって、もちろん吹奏楽部も毎年演奏をしている。
今だって、それに向けて練習しているわけで。


「大変だっていうのは、分かってるんだけどさ。俺も協力するから。……もしだめでも、大丈夫だから」


という奏太くんの表情は、明らかに大丈夫そうではなかった。
昔から押しに弱い奏太くんのことだから、きっと他の部員たちにも声をかけたけどことわられてしまったんだろう。
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