君と一番の恋をする
奈央ちゃんは、なんで侑人の弟と二人きりで屋上にいたのかとか、そもそもなんで知り合いなのかとか、奏太くんとの少しばかりある距離についてとか、そんなのは一つも聞いてこなかった。
それは、奈央ちゃんの気遣いなのか単に気にしていないのかは分からない。
けど、説明すると長くなりそうだからよかったかも。なんて思ってしまう自分は、嫌だな。


「じゃあね、麻里花。私こっちだから」
「うん。また明日ね!」


田舎のそう大して広くない駅内で、方向の違う奈央ちゃんと別れる。
階段を下りてホームに出ると、冷たい風が吹いた。
午後7時過ぎの空は、もうほんとに真っ暗。澄んだ秋の空にきれいな星が瞬いている。

寒いな、と思って手の平まで服を伸ばしたところで私は重大なことに気が付いた。
……陸人くんのカーディガン、返してない!
というか、がっつり着ちゃってるし。

後輩男子の制服借りパクするとか、とんでもないことしてる。
いや、今日は週末じゃないし別に明日都合が合えば陸人くんに返しに行けばいい話なんだけど。
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