君と一番の恋をする

最寄り駅の違う陸人くんとは途中で別れた。私は、あと一つ先の駅。
カーディガンは結局返した。
今度なにか、お礼でもしようか。

車内アナウンスがなり、ホームへの到着を知らせる。
私はかばんを持って降り、駅を出た先にあるバスに乗った。
私の住む家の住宅街付近まで走っているこのバスは、いつも乗客が少ない。

一人席に座ったあとすぐに出発し、流れる窓の外を眺めてみる。
家族に心配かけてるとか、あのとき陸人くんはなんて言ったのかとか、お腹が空いたとか。
考えることはいっぱいあるけど、その中でも一つ、忘れかけていたことが頭に浮かぶ。

今日、屋上で話すつもりだったであろう陸人くんの話を一つも聞けてないことだ。
どうしよう、話す時間、あるかな。


10分ほどで着き、バスを降りると冷たい秋の風が吹くのを感じた。
短い髪がなびいて、右耳にかけてみる。

寒いな。もう夏が、終わってしまった。

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