ワケアリ(オカルトファンタジー)
どれ程そうしていただろう。
ボタボタと口から目元から、滴が溢れて落ちていく。
それを、拭うこともせずにただ泣き崩れていた。
そして、その涙が全てで終わり、鋏が月に照らされ恐ろしい美しさで光る頃、私は立ち上がった。
あなたのためを思って、自らをここまで貶めて、あなたへの忠誠を誓ったのに、あなたはそれに答えてはくれない。
もう二度と、私を呼んではくれない。
ならばもう、何もいらない。
今まで築き上げてきた忠誠も、想いも、全て葬り去ってくれよう。認めてくれる人がいなくなった今、自分など存在する意味がない。
失う物など何もない。
私は最初から何も持ってなどいなかったのだから。
欲しいものさえ、もう二度と手に入らないのだから。
ならば、誰かに取られる前に、風の噂に、あの人の幸せを聞く、その前に。
何も持っていない私が、最後に一つ、欲しいものを手にしたとて、何のバチが当たるというのだろう。
今まで傷ついてきた、この私が最後に一つの安息を手にして、何のバチが当たるというのだろう。
シャク、…
鋏は口を開き、声をあげた。
*