ワケアリ(オカルトファンタジー)
目の前に間丘先生が寝転がっている。
この人が、私を動かしていた声の人。そんなことを、呆然としている頭の端っこの方で思った。
口の下の、咽喉に新しい口を作っている間丘先生を眺めながら、私は涙が溢れてきた。
「私…先生にとって、なんだったんですか…。私は…そんなに、あなたに憎まれるほど酷いことを、したんですか…?私はただ、あなたが思うように、あなたの望むままに、動いていただけなのに…」
『姫様……!』
何処からか声が聞こえる。
今までずっと、脳を支配していたその声が近いような、遠くから、身体の外からか内からか、声を発した。
呼ばれるように、立ち上がって部屋の中を歩き回ると、間丘先生の仕事机の上に万年筆が一つ、転がっている。
そのペンはなんだか懐かしいような、気持ちがした。
私の鋏と同じ模様が描かれている、万年筆。
私はそのペンをギュッと胸の前で握り締めた。
そしてそれを持って、私は間丘先生の傍へと向かう。
何故だか、心地よかった。
漸く、全ての痛みから解放されたような気がした。