ワケアリ(オカルトファンタジー)
その男は、真っ黒の闇から真っ赤な舌をチロリと吐き出して、犬のようにハァハァと肩で呼吸を漏らしている。
グッ、と首を圧迫する男の手に力が篭る。
その瞬間に漸く自分が硬直していたことに気付き、慌てて押しのけようと、茜はその手を掴んで、じたばたともがいて男の隙を付いて逃げようと試みた、が。
手首を掴もうと伸ばした手はフワッと冷たい空気を押しのけて、その瞬間、男の姿は、消えた。
ハ…、ハァ…、
荒くなった呼吸のまま、訳もわからず茜はただ呆然と何もない、自分の腹部の少し上を眺めていた。
正しく出来るようになった呼吸はそれでも少し、重苦しくて、茜は大きく何度か深呼吸を繰り返して部屋の電気をつけた。
白い蛍光灯に照らされた見慣れた部屋は白を基調とし、所々の家具や雑貨にピンクの色を織り交ぜられた女の子らしい部屋。
先ほどまで、妙な男が、いた部屋。
「…幽霊…?」
それにしては強く首を絞められていた。