ワケアリ(オカルトファンタジー)
「チェス、男尊女卑、と言う言葉を聞いたことはあるか?」
リオンはいつもの膝ほどの高さの、生活スペースと店の境目である段差に腰を下ろし、チェスは店に置かれている、チェス用の踏み台の上に腰を下ろして、リオンの私物である本を膝の上に広げて客のいない昼近い午前の時間を、過ごしていた。
ふと、思い出したように呟かれるリオンの問いに、チェスは慣れたのだろう、本に目を落として答える。
「うん、あるよ。…というか、本に書いてた」
チェスは学校には行っていない。
なので、先生の話などではないが、リオンの私物である本に書かれていたことを覚えていたようで、答える。
「今でこそ尻に敷かれている男は多いが、昔は国が男尊女卑を謳うことは少なくはなかった。…中世ヨーロッパで魔女狩りがあっただろう、あれも典型的なものだと考えられる」
「男の人よりも女の人が魔女だって言われることが多かったんだよね」
「そうだ。魔女狩りはそもそも、裁かれた人間の財産は全て教会が引き取る仕組みになっていた。だから欲に眩んだ人間は何かと理由をつけて処刑をしたんだ。恐れた人間は助かろうと他の人間の名前を出鱈目に吐く。そして、名前を吐いた人間も吐かれた人間も、処刑される」
「火炙りとか、水攻めとか…あれだね。リオンの本棚にはそういったのが多いから、案外詳しくなっちゃったよ」
リオンの私物の本。
それは、専門家が見れば絶句するほど、素人が見れば気味悪がるほどに、古今問わず、表記文字も、英語ドイツ語フランス語イタリア語ラテン語日本語問わず、魔女や魔術などの、オカルトの本である。
その隅にはチェス用に、一般教養に必要な最低限の教科書じみた物もあるが、チェスは一回読んでそれ以降読んでいない。
リオンもそれについては特にとやかくいう事はなく、自分の本を読む事にも大して咎めることをしない。