ワケアリ(オカルトファンタジー)
男?
チェスが問いかける。
普通であれば、奴隷にされた女が男へ恨み辛みを抱き、指輪に憎悪や怨念を残して後世を祟り続けていく、というのが常である。
それに関わらずこの指輪には女ではなく、男の念が宿っていると言う。
首を傾げているチェスはもう膝の上に置いている本を見てなどいない。
リオンも、落としていた視線をチェスへと向けながら続ける。
「少し前、鈴の事を『血の輪、でチリン。巡る意味がある』と言っただろう」
「ん?あぁ、心中しようって言われて自分だけ死んじゃった女の人の鈴ね」
「そうだ。輪と言う物は巡る。指輪もそうだ。切れないことから、永遠に続く絆などと言われている事もあるが……この指輪は巡って、男の元へとやってきた」
「え?じゃあ…」
「この男が指輪にとり憑く前に、指輪に取り憑いていたヤツがいたんだ。それはこの男の前妻。男にはドメスティックバイオレンスの傾向があって、勢い余って殺してしまったんだ。その女が宝物にしていた指輪が巡り、男の元へと辿り着いた。そうとは知らず、男は奴隷にその指輪を嵌める。すると、女の怨念が、猛威を振るう」
「前の奥さん、何したの?」
「指輪を付けられた奴隷を、死なないようにした。どれだけ殴ろうが、蹴ろうが、骨が折れようが、血が流れようが、変わらず笑っているように」