ワケアリ(オカルトファンタジー)
怖っ!
と、チェスは叫んで、その割りに表情は楽しそうに、まるでお伽語を語り聞かせてもらっている子どものよう。
興味が湧いたのか、チェスは本を商品であるテーブル――人がナイフで磔(はりつけ)にされ、解剖実験をされたテーブル――の上に置いて、踏み台をリオンの元へと持ってくると、リオンの隣で話の続きをせがんだ。
「それで、男はどうしたの?」
嬉々した声。
「最初のうちはストレスを発散させるいい道具が見つかったと喜んでいたが、ある時、前妻と同じく勢い余って殺してしまった。しかし、奴隷の死は罪に問われない。また新しい奴隷を買おうと思っていたときに奴隷が起き上がった。…目を疑っただろうな」
「リオンの好きな、人間の驚きと、恐怖と絶望に歪む顔ってやつだね」
「気の所為だと思って、最初、男は気にしない事にした。しかし、何度かして女が殺しても死なない事に気付いた。気味悪くなった男は女を捨てようとするが、指輪をしてる以上は女は男のものだ。それに女はどうやっても男の元を離れなかった。ちなみに前妻の怨霊だけで生かされている女の身体は、とうの昔に死んでいるから、肌は段々と腐り、骨は歪に折れたまま……まぁ、陳腐な例えをするならゾンビだな。アレが笑いながら傍に寄り添ってくるんだ、普通の人間なら発狂する」
「…そりゃあ……嫌だね」
白目をむき、血色のない顔で、歪な方へと身体が折れ曲がりながらも、誠実に、本当に犬のように付き従うゾンビを想像して、チェスは引きつったような笑みを浮かべながら答える。