ワケアリ(オカルトファンタジー)


部屋に充満する血液の生臭いような、塩臭いような匂いを鼻腔の奥へと吸い込みながら、宙に手の平を翳した。


異様な光景である。


胸の真ん中をぽっかりと空けて、たまに綺麗な色をした肺や、胃がはみ出している、間違えて取り出されたことを物語る、二つの死体。


そして、頭と肩を銃弾で打ち抜かれた、一つの死体。


そんな死体三つを目の前にし、動じない男。死体三つを目の前にし、動じない男に動じない少年。


そして何より、今目の前で転がっている、死んで間もないその死体を作った少年を目の前に動じない男。


その異様な男は目を閉じながら何かを探るように手のひらを翳しながら、答える。



「それはとある貧しい国の娘が両親から結婚祝いとしてもらった箱だ。結婚式前日、娘はその箱の中に今まで貰った家族からのプレゼントや写真を入れた。貧しいながらも、幸せだったその頃がすぐに思い出せるように。嫁ぎ先へ行っても、家族を永遠に忘れないように。その日の夜、娘の村はとある国の部隊に襲われた。男は問答無用で殺され、女どもは犯された。娘もその内の一人で、自殺した。貧しくひもじい思いをしながら生きていた自分が何故このような目に合わねばならないのか…その娘の箱、それは永遠の箱だ」



「永遠の箱…?」



「お前の両親の心臓は腐る事も無く永遠にお前の傍にいるだろう。そしてお前は永遠にその姿のままだ」



「へ…?」



「女はこの中に幸せだった頃の写真などを入れていた。次に生まれ変わる時は、永遠にこんな日々が続くようにと願いながらな。その想いがこの箱に宿った。…お前と親の心臓に掛けられたのは、永遠にその姿で老いもせず死ぬこともなく生き続ける呪いだ。首が吹っ飛んでも、人類が滅亡しようとも生き続ける。…呪いを解いてもいいが親の心臓は止まるぞ」



突拍子の無い話に、エルヴィスは呆ける。


そして、恐る恐る宝箱を見た。


そこには、動かないはずの心臓の鼓動が微かに宝箱を揺らしていた。隙間から、ポタポタと生暖かい血液も垂れ流して。


不老不死と奇妙な心臓。


暫くの沈黙を、破ったのはエルヴィスの一言。


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