ワケアリ(オカルトファンタジー)
そうとは知らず、エルヴィスはただ、一人と言う漠然とした不安を抱えて困ったように首をかしげた。
途方に暮れたような、それでも実感が湧かない、不安。
生々しい肉を切るあの感覚を思い出して、エルヴィスは『人間の死』を何となくだが感じ取っていた。
今まで感じた事のない、人の死。
そんなことを考えながら、生温い泥沼の中に手を突っ込んだような、あの水気を含んだ少し重みのある臓器の間を潜ったその手の感触を、思い出していた。
そして、胃を身体から出した(それでも管は身体の中に繋がっている)両親を思い出して、いた。
本 物 に 近 い 、 死 体 だ っ た 両 親 。
偽物の拳銃なんかで遊んでいる『ごっこ遊び』よりも、スリルがある。
平和ボケした、子供たちが一番好むスリル。
人を撃ちぬいた瞬間の、何とも言えない浮遊感。
身体が軽くなるような気がして、頭の中にあった使命(国を滅ぼす悪者のラシェルを自ら手に掛けるという意思)が達成された爽快感は何ともいえなかった。
お父さんは、これだから仕事にのめりこんだのか。
何となくだが、エルヴィスは理解をした。
「お兄さん、…お兄さんは、どっち?」
ヒーロー?
それとも、悪者?
その問いかけに、黒尽くめの男は鼻で笑って答えた。
全ては、お見通しだと言いたげに。
「死神」
と。