ワケアリ(オカルトファンタジー)
「………」
店の主、リオンはそんな震える調度品たちには目もくれずに仏頂面を本へと向けて、本を読んでいるというよりも長い前髪から見える鋭い眼で睨みつけていた。
店の商品の間にある、膝ほどの段差。幅は1m半ほどだろうか。
店と同じように茶色と言うよりは焦げ茶の木材が使われた、その膝ほどの段差を上がればリオンたちが生活する部屋。
そこは、店と家を分け隔てる唯一の場所だ。
そこに鎮座する黒い塊。
…そう言ってもおかしくないほど、リオンは黒しか身につけていなかった。
アクセサリーは眼鏡、ネックレス、チェーンの付いたカフスピアス、リングがあったが、それだけがシルバーで、他は真っ黒だった。
黒いシャツ、黒いズボン、黒いベルト、黒い紐タイ、黒の外套と言えるマント、黒いブーツ。何かのコスプレか、ゴシックと言える。
その顔は美しく、黒く長い髪は腰まで伸び、女のようだが、彼はれっきとした男で、その秀麗な眉を寄せながら眼鏡をクイ、と上げた。
次いで、低い声。
「チェス」
「何、リオン」
「紅茶」
淡々と述べられる言葉は単語のみだが、チェスと呼ばれた、リオンとは違いカジュアルな格好をした少年は理解したと、すぐに色素の薄い茶色のショートヘアを揺らしながらキッチンへと向かっていった。