ワケアリ(オカルトファンタジー)
彼が来た瞬間のリオンの反応と言うものは、沈黙、そして、殺意だった。
それはチェスでさえ初めて見る、リオンの明らかな不愉快と不機嫌と敵対心である。
最初に彼を出迎えたのはチェスで、いつものように明るく「いらっしゃいませ」と言おうとしたのが、彼を見た瞬間に、言いかけた言葉の最後が萎んで行った。
それに違和感を抱いたリオンが本へと落としていた視線を、微かに上げ、沈黙、そして、恐ろしいまでの人間が感じる不の感情の殆ど全てを露にして立ち上がり、チェスの肩を掴んで先ほど自分が居たいつもの指定席へと押しのけた。
「チェス、部屋に入ってろ」
いつも以上に鋭い眼差しを相手に向け、チェスには顔さえも向けずにリオンはそれだけ言うと、相手を見据えた。
一気に室内の温度が下がる。
「へ?う、うん…」
言われたチェスはあまりにも殺気立つリオンに促されるまま逃げるようにして部屋の奥へと向かった。
しかし心配なので遠くからリオンの様子を伺い見るべく、柱の影からコッソリと頭だけを出して、先の見えない日常をぶち壊した異常の行方を見守った。