ワケアリ(オカルトファンタジー)


「こ、珈琲は………」



無いと言おうとした瞬間、リオンは静かに右手をスッと上げた。人差し指だけをピンと伸ばし、何かを指差す形だ。


条件反射で、チェスとフィンはそちらを見るが、そこにあるのは先ほどフィンが不慣れな手つきで補修した壁と調度品があるだけで、珈琲などは置いていない。


というか、この店、もとい家には珈琲なんてものはない。リオンは珈琲が嫌いなのだ。


その指が指し示すものに理解が出来ずに何だよ、とフィンが首を傾げるや否や、壁と調度品に付けられていた当て板が壁や調度品に溶けて、まるで何事も無かったかのように元通りになった。


死神が殆ど勉強しない、癒し、直すという魔術。


その一瞬の行為で、フィンの先ほどまでの労働は水の泡となり、一瞬の嫌な沈黙の後、フィンは口元をヒク付かせながら、口を開いた。



「お前さぁ、直せんだったら言えよ」



「聞かなかったほうが悪い。それに、あんな不恰好な商品は使えないし、壁だって見苦しい」



「人が頑張って直してやったってのに何だよその態度は!」



「お前がさせたんだ、お前が直して当然だろう。それが気に食わないから直すのも当然だ。悔しかったら魔術を覚えることだな」


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