ワケアリ(オカルトファンタジー)


意識はあった。


何台もの車を見送って、私はそれでも、その車を見てはいなかった。


この現場は、かつては奏と一緒に毎日登下校した、今は殆ど通らなくなった、道。


奏が事故死した、現場。




チリン



チリン




立ち止まっているのに、私の鈴が鳴った。


呼び合うように、同じ音の鈴が鳴った。私のが鳴っているのか、奏の鈴が鳴っているのか、わからない。



鳴っているわけがないのに、鈴の音は共鳴し合い、重なり合う。



私の足は、何かを追いかけるように進んでいく。


薄暗い、夜道。


通りはあまり人気がない。それでも、車の通行量は多い。トラックなども引っ切り無しに右から左へ、左から右へ、小さな信号を律儀に守りながら、進んでいく。


私の足は、勝手に進んでいく。



止まって、ダメ…!



声さえも出ずに、かすれた空気の漏れる音だけがカサリ、と鳴る。



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