ワケアリ(オカルトファンタジー)
「何か、お探しですか…?」
何処からか聞こえた声は、低く、俺は辺りを見渡したが、誰もいなかった。
気のせいにしてはリアルな声に、私はその場を離れて別の棚へと移ろうとしたとき、店の片隅にある膝ほどの高さの段に黒尽くめの男が腰を下ろして本を読んでいるのを発見した。
「うわっ…!」
思わず声を出して仰け反った。
先ほどの声はこの男だろうか。
不躾な声と視線を不愉快に思ったのか、長い髪が揺れて、その隙間からその男の鋭い目が睨みつけた。
思わず言葉を失うほどの射る視線に竦んでいると、彼が座っている段差の奥にある部屋から十代前半ほどの少年が出てきた。
「リオン、お客さんビビってるじゃん!」
「……そうか?」
いらっしゃいませ、と黒尽くめの男とは裏腹に手際よく対応するその少年は俺の邪魔にならないようにさっさと商品の乱れがないか、店内を徘徊し始めた。
黒尽くめの男はそれきり何も言わず、分厚い本に、先ほどの恐ろしく鋭い視線を向けている。
本に穴が開くのではないか、本が怯えて紙吹雪になるのでは、と心配するほど。