ワケアリ(オカルトファンタジー)
次いで、俺が眺めていた戸棚には俺の目を引く一品が重々しく飾り立てられていた。
それはまるで日本刀のようにガラスの支えに支えられて真横に寝かされ飾られている、万年筆。
俺はそのペンを手に取った。
持ちやすいそのペンは黒を基調としていて、美しい花と、鳥の絵が金色で彫られている。
キャップを開けると殆ど新品に近いほど綺麗なペン先をしていて、およそ数十万はするだろう、綺麗な一品だった。
インクもどうやら出るようで、俺は値段が気になってペンの隅々を眺めたり、棚を眺めたが、どこにも値札らしい物は付いてはいなかった。
俺は少年を呼び止めると、尋ねる。
「ねぇ、値札って何処にあるんだい?」
「ここの物は全部タダだよ。ただし、大切にしてあげてね。ここにあるものは、先代に愛されたものばかりだから。……でよかったっけ、リオン」
「あぁ、大体そんな感じだ」
少年は黒尽くめの男に確認を取るとにっこりと笑って得意そうに胸を張った。
「え、…じゃあ店が成り立たなくないか…?」
「大丈夫なんだよ」
少年は、答えた。
かくして、俺はペンを購入した。
というよりは譲り受けたと言った方が正しいだろう。
物凄く高そうなペンだったので、無料と聞いて拍子抜けしたが、これで書けば、何かいいものが書けるような、そんな気がしていた。
気のせいかもしれない。
だが、気のせいじゃない確信が、心の隅に、あった。
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