ワケアリ(オカルトファンタジー)
店員にしては、素っ気無い。馴れ馴れしい店員もあまり好きではないが、ここまで素っ気無い店員も考え物だ。
ふわりと、何処からか薫り高い紅茶の匂いがした。
いや、この店の中には紅茶の匂いが充満しているのだ。
沢山の茶葉の、沢山の紅茶の匂いが、互いを尊重しあいながら存在している。
「ありますよ」
紅茶の種類で言えばブラックティーだろう。色も、存在も、声も、暗く、渋く、そして苦い。
男は気だるげに本を閉じると立ち上がり調度品の中へと向かっていった。
それでも、彼は何を差し出されても買う気はなかった。
こんな綺麗に整えられた店の中にある品物。
ましてや先ほどの貴婦人のような高そうな調度品まで並ぶ店の中で出された物なんて、サラリーマンの小遣いで買えるわけがない。
彼がどんな言い訳をしようかと考えていると、黒尽くめの男は一つの人形を差し出してきた。