ワケアリ(オカルトファンタジー)
自他共に認める小説好きのリオンは、そう言い切ると今しがた読み終えた本を本棚へと返すべく、幾つかの部屋を通りすぎ、書斎へと辿り着くと神経質に整頓された本棚の一つの隙間に本を差し込んだ。
次に何を読もうかと、本の背表紙を眺めていると遠くからカランコロンとベルの音が響いた。
それは店に来客が来たことを知らせるベル。
リオンは然して気にする様子もなく本を選び続けた。
その間に、チェスが来客をもてなしている声が聞こえる。
「いらっしゃいませー」
チェスがもてなした客は一人の若い女性だった。
仕事途中なのか、休日なのかはわからなかったが、少し疲れた様子で、でもその表情の中にわずかな好奇心を含ませて店内を物珍しげに眺めていた。
本を持って、戻ってきたリオンが問いかける。
「何か、お探しですか…?」
「ふわっ!?…あ、いえ……すみません」
女は突如現れた黒尽くめの男に驚いたように声をあげて、すぐに謝った。
チェスはクスクスといつもの客の反応に笑って、リオンはそんなチェスをもの言いたげに睨んだ。