ワケアリ(オカルトファンタジー)
先ほど入ってきた女はそそくさと隠れるように棚の奥へと入っていく。
リオンと顔を合わせづらくなったのだろう。
さして興味も示さずに、店と家の境目にある膝ほどの段差に腰を下ろすと、リオンは先ほど持ってきた新しい本の表紙をペラリと捲る。
暫く、靴の音と紙の捲れる音、そして時たま天井の奥で電車が通る音と、それに怯えるようにして調度品たちが震える音が聞こえた。
シャクン…
そんな音が聞こえたのは、何度目かの電車が通っていった時のことだった。
先ほどまでは聞こえなかった音にチェスは耳を傾け、リオンは興味もなさげに本を眺めている。
シャク、シャクン…
暫くして女がリオンの元へ、一つの商品を手に歩み寄ってきた。
それは金色の、持ち手が美しく装飾された裁ちバサミだった。
シミ一つない、サビも見当たらない刃こぼれもない、刃渡りが二十センチほどの、鋏。