ワケアリ(オカルトファンタジー)
「これ幾らですか?」
「ここにあるものは全て、料金は頂きません。ただ、大切にしてあげてください。彼らは先代に愛され慈しまれてきたもの達ばかりなので、とても寂しがっているのです」
「え、でもこれ凄く綺麗だし、切れ味も良さそうだし、新品ですよ?」
「いえ、ここにあるものは中古品ばかりです」
嘘だと言いたげに、女はまじまじと鋏を眺めていた。
どこを見ても、使われた形跡などない。
「欲しいなら貰って行ってあげてよ、その方が嬉しいんだ。リオンってば色んな物拾ってくるのに捨てることはしないからさぁ」
「本当に必要な人と巡り会って欲しいだけだ」
そこまで言うのなら、と女は有難く鋏を貰い受ける事にした。
彼女の趣味は家事や洗濯といった女らしい家庭的なことで、裁縫などは特に好きでよく自分で自分の着たい服を作っている。
将来子どもが出来たら自分が作った服をきせてあげたい、と言うのが密かな夢でもある。
手にしたその鋏は鳥と、花のようなものが彫られていて、とても綺麗だった。
丁度今まで使ってた鋏も買い替え時で、さらにここ最近仕事のパートナーには散々振り回されて、訂正もなく本を出版させられて、編集長には怒鳴られるし、妙な事件も多い。
出版された本と、シチュエーションが酷似している女子中学生の自殺が目に見えて増えたのだ。
微かに、女の仕事先である西宮出版を見張る報道陣も増え、神経を研ぎ澄まさねばならず、常に気が張り詰めていた。
これはきっと自分へのご褒美だろう、そう思う事にしてこれを使って新しい服や小物を作ることを楽しみに、仕事のパートナー宅へと向かった。
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