*クモリガラス*


目の前にいる滝沢くんは、やっぱりすごくカッコ良くて。

黒いジャージ姿で、冷えた廊下に白い息を吐き出した。



「お前まだいたんだ」


「え?…なにが?」



話しかけられてることにさえ、緊張して頭が回らない私は

滝沢くんの言ってる意味も、よくわからない。



「いや、いつもはもう少し早く帰ってる気がしたから」


「…そうかな」



そう言われれば、今日はいつもより長く外見てたし、恭ちゃんともしゃべってたし。

いやいや、でも…
な、なんで知ってるんだろ。

焦れば焦るほど、全くよく分からなくなる。



オロオロし続ける私の前で、しばらく黙っていた滝沢くんは



「ふ〜ん、そういう日もあるんだ。別にいいけど」



なんて言いながら、ニコッと笑った顔を見せた。

いきなりそんなだから


う…うぁ〜っ!!


私の中は
もう完全にパニックで…



「あの…
練習頑張ってください!」


「え…?
あ、うん…って、ちょっと?」



不思議な顔をする滝沢くんをおいて、私は玄関めがけてダッシュしてしまった。


に、逃げたみたいかな。

だって…誰もいない廊下に二人だけだったんだもん!



恋の力のせいなのか、滝沢くんの近くはとても息苦しかった。







< 8 / 27 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop