*クモリガラス*
目の前にいる滝沢くんは、やっぱりすごくカッコ良くて。
黒いジャージ姿で、冷えた廊下に白い息を吐き出した。
「お前まだいたんだ」
「え?…なにが?」
話しかけられてることにさえ、緊張して頭が回らない私は
滝沢くんの言ってる意味も、よくわからない。
「いや、いつもはもう少し早く帰ってる気がしたから」
「…そうかな」
そう言われれば、今日はいつもより長く外見てたし、恭ちゃんともしゃべってたし。
いやいや、でも…
な、なんで知ってるんだろ。
焦れば焦るほど、全くよく分からなくなる。
オロオロし続ける私の前で、しばらく黙っていた滝沢くんは
「ふ〜ん、そういう日もあるんだ。別にいいけど」
なんて言いながら、ニコッと笑った顔を見せた。
いきなりそんなだから
う…うぁ〜っ!!
私の中は
もう完全にパニックで…
「あの…
練習頑張ってください!」
「え…?
あ、うん…って、ちょっと?」
不思議な顔をする滝沢くんをおいて、私は玄関めがけてダッシュしてしまった。
に、逃げたみたいかな。
だって…誰もいない廊下に二人だけだったんだもん!
恋の力のせいなのか、滝沢くんの近くはとても息苦しかった。