最推しと出会えた日

「嘘・・・うそだよ、こんなの」

デビュー当時から推していたバンドが急に解散するなんて。

推しと一生を過ごすつもりで生きてきたのに。


「なあ、大丈夫か?」

先輩は私の心配をしてくれたけど、先輩を好きになるずっとずっと前からQさんのことが大好きだったんだよ。

先輩に告白してフラれるよりも、Qさんに会えなくなってしまう事の方が悲しいに決まってるじゃん。

「うわーーん。嘘だよ、こんなの嘘だもん。信じないもん。先輩のバカっ」

私は先輩の前でも構わず大泣きしていた。

「だから・・・だからなんだ」

いつもならライブチケットは簡単に購入できるのに、今週末のライブチケットは初めて取れなくて悔しい思いをしたんだ。

仕方ないから次のライブまで我慢しようと思っていたのに。

「泣くなよ。俺、泣かせたくて教えたんじゃないんだけど」

先輩は泣いている私のことが手に負えないようで、困り果てていた。

「ごっ、ごめんなさい。先輩が悪いわけじゃないけど。でもやっぱり先輩のせいだー。うわーん」

駅にいる人たちが何事かとこちらを見ているようで、先輩はそれに耐えられなくなったのか、悪くないのに謝ってきた。

「ごめんって。っつーか、なんで俺が周りから冷たい目で見られてんだよ。なぁ、泣き止んでよ」

「だって。だってね。今週末のチケットが取れなかったの。解散ライブなんでしょ? チケットが取れなかった自分が許せない!」

いつまでも泣き止まない私を可哀想に思ったのか、先輩が神様のようなこと提案してきた。

「よし。今すぐ泣き止んだら、これやるよ。泣き止まないなら他の奴に譲る。どうする、茜」

先輩がカバンから取り出して私の目の前に差し出してきたのは、解散ライブのチケット。

私が今一番欲しいもの。

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