最推しと出会えた日

「えっと。キーホルダーがドアに挟まっちゃって、抜けないんです」

私はカバンから伸びているキーチェーンを見せて、その先にあるはずのキーホルダーがドアに挟まれているのを指で教えた。

「キーホルダー外せば? そしたらカバンが自由になるだろ」

こんな話し方するんだ。

心配してくれてるみたいだけど、このキーホルダーだけは手放せない。

「こっ、これはダメ。絶対に無くせないキーホルダーだから」

私は頭をブンブン振って全力で先輩のアドバイスを否定した。

「じゃ、どーすんの? こっち側のドアって何駅先で開く?」

「し、知らないです」

そんなやり取りをしてたらドアが閉まって、電車が発車してしまった。

「「あ・・・」」

二人同時に声を出す。

「ごめんなさい。先輩を巻き込んじゃった。次の駅で降りて下さい」

「じゃ、お前はどーすんの?」

「私はこっち側のドアと心中します」

「ははっ、そっか。ご愁傷さま」

初めて話したのがこの会話って。

もっとロマンチックな出会い方をしたかったな。

「本当にごめんなさい。遅刻しちゃいますね」

「まあ、いいよ。俺もこっちのドアと心中してやるよ」

先輩はそう言うと、私の隣でドアに寄りかかった。

< 5 / 24 >

この作品をシェア

pagetop