最推しと出会えた日
「えっと。キーホルダーがドアに挟まっちゃって、抜けないんです」
私はカバンから伸びているキーチェーンを見せて、その先にあるはずのキーホルダーがドアに挟まれているのを指で教えた。
「キーホルダー外せば? そしたらカバンが自由になるだろ」
こんな話し方するんだ。
心配してくれてるみたいだけど、このキーホルダーだけは手放せない。
「こっ、これはダメ。絶対に無くせないキーホルダーだから」
私は頭をブンブン振って全力で先輩のアドバイスを否定した。
「じゃ、どーすんの? こっち側のドアって何駅先で開く?」
「し、知らないです」
そんなやり取りをしてたらドアが閉まって、電車が発車してしまった。
「「あ・・・」」
二人同時に声を出す。
「ごめんなさい。先輩を巻き込んじゃった。次の駅で降りて下さい」
「じゃ、お前はどーすんの?」
「私はこっち側のドアと心中します」
「ははっ、そっか。ご愁傷さま」
初めて話したのがこの会話って。
もっとロマンチックな出会い方をしたかったな。
「本当にごめんなさい。遅刻しちゃいますね」
「まあ、いいよ。俺もこっちのドアと心中してやるよ」
先輩はそう言うと、私の隣でドアに寄りかかった。