最推しと出会えた日
「あの、私、本栖茜っていいます。優希先輩、ごめんなさい。呼び止めたのは本当に無意識で」
「俺の名前知ってるんだ」
「は、はい。優希先輩は学校で有名人ですよね。だから私も知っています」
「へぇ、俺ってどう有名なの?」
改めてどんな有名人かなんて聞かれても、なんて答えたらいいんだろう。
「優希先輩は、イケメンだし、後輩から人気あるし。それに・・・」
「それに、なに?」
「キーホルダー・・・」
私は思わず慌てて口をつぐむ。
「は? キーホルダー?」
私の好きなバンドのキーホルダーを持っている先輩のことが気になるから知っているんです、って言いそうになった。
「いえ、何でもないです。話を間違えました・・・」
苦しい言い訳をしていたら、タイミングよく電車のアナウンスが流れてきた。
≪次の駅は右側のドアが開きます。開くドアにご注意ください≫
電車のドアのアナウンスによると、次の駅で挟まれている方のドアが開くみたい。
「やったー。電車降りられるね。良かったー」
そう言いながら私は目の前に立っている先輩にハイタッチを求めると、
「え? う、うん。良かったな」
先輩は戸惑いながらも私のハイタッチに応じてくれた。