最推しと出会えた日
ドアが開き、自由になった私はキーホルダーが潰れていないか手に取って確認する。
良かったぁ。壊れていなかった。
私が大事そうに見ているキーホルダーを先輩が指さして、
「あれ、そのキーホルダーって」
やっぱり気付くよね。
先輩も同じキーホルダー持ってるんだもんね。
「私の好きなバンドのキーホルダーなんです」
「この時のライブ行ったんだ? へぇ、好きなんだ」
「うん。本当に大好きなバンドなんです。ボーカルのR(アール)さんもすっごくかっこいいし好きなんだけど、私が特に好きなのはギターのQ(キュウ)さんでね。ギターには詳しくないんだけど、彼の弾くギターの音色は本当に心にしみるんだよね。ヴィジュアル系だからメイクが濃くて。でもきっと素顔もかっこいいの・・・・」
そこまで喋って、ハッとして思わず自分の口を手で押さえた。
好きなバンドのことになると話が止まらなくなるのは私の悪い癖。
早口で喋りまくって、あろうことかタメ口で話してしまった。
急に話をやめて黙ってしまった私に、
「バンドのプレゼンもう終わり? 下りの電車が来るまでバンドの話聞かせてよ」
私がバンドの話を始めたら友達はみんな呆れた顔するって言うのに、先輩は嫌な顔一つしない。
「いいんですか? 話止まらなくなりますよ」
私は遠慮なくバンドの話ができるのが嬉しくてニヤけてしまう。
「ははっ、そんな嬉しそうな顔で話されたらこっちもつられるわ」
先輩は私を見て笑ってくれた。
その笑顔が可愛くて。
かっこ良くてかわいいなんて反則だよ、優希先輩。