自国最強の騎士団長様は私が守ります。だって私、世界最強ですから!
気の毒になるほど震える侍女の手の甲に、リリアーヌは口づけた。すると侍女の口からヒュッと息を呑む音が聞こえてきた。
「お嬢さん、大丈夫ですか?怪我はされていませんか?幸い割れたのは皿のみ。あなたに怪我が無くて良かった」
リリアーヌはそう言って、侍女の腰を抱き寄せる。
「私はこの国を守り、国民を守る剣。大丈夫、何も心配はいりません」
リリアーヌが不敵に笑いながら、ドミニク殿下に視線を向けた。すると、それに気づいたドミニクが拍手をしながら声を張り上げた。
「これは余興だ。私がこの侍女に皿を割るよう指示をした。そして皆がどのような反応をするのか試させてもらった。さすがはこの国の英雄二人。素晴らしい働きを見せてもらった。我が国の騎士はとても優秀だな。どんな時でも王族を守り、国に忠誠を誓う。二人に盛大な拍手を!」
大広間に歓声と拍手が鳴り響いた。
リリアーヌはその歓声に応え、頭を下げる。侍女もリリアーヌに促されるように頭を下げた。リリアーヌは侍女耳元で「もう大丈夫。安心して」と囁くと頬を染めた侍女が、瞳に涙を溜めながら何度も頭を下げ、大広間から退場して行った。
大ごとにならなくて良かった。
ドミニク殿下の機転に感謝しかない。
これが余興でないことに気づいている人間は沢山いただろう。しかし、王族が余興だと言えばウソも真実となる。これで良かったのだ。あのままではこのような大きな式典で失敗した侍女は、断罪されることになっただろう。
このような晴れの日に可哀想なことにならなくて良かった。
リリアーヌが胸を撫で下ろしていると、満足そうに微笑むグランツ様と視線が重なった。グランツ様の手元を見るとハンドサインが……『お疲れ様。君が誇らしいよ』
嬉しい。
ジワリと頬が熱くなった。
グランツからもらった言葉を噛みしめリリアーヌは感動に浸った。