自国最強の騎士団長様は私が守ります。だって私、世界最強ですから!

 その時、仕事を終えたリリアーヌ様がやって来てしまった。なぜこのタイミングで……。このままではローズ様とリリアーヌ様が鉢合わせしてしまう。どうにか回避するため、脳内をフル回転させるが良い案が浮かばない。リリアーヌ様は首を傾げつつも団長の執務室へと向かって行ったしまった。

 あの人の悲しむ顔は見たくない。

 俺はすぐにリリアーヌ様の後を追った。そして団長の執務室の前で立ち尽くし震えるリリアーヌ様を見てしまう。後ろから見たリリアーヌ様は小さな子犬のように小刻みに震え、口元を両手で押さえていた。

 またそんな顔をして……。

 俺はギリギリと音が出るほど奥歯を噛みしめ、両手を握り絞めた。

 我慢の限界だった。

 あなたを悲しませる者は、団長であっても許さない。

 俺はそっとリリアーヌ様に近づき、声を掛けた。

「リリアーヌ様……?」

 ゆっくりと振り返ったリリアーヌ様の瞳から大粒の涙が流れていた。

 団長はどうしてリリアーヌ様を悲しませることばかりするんだ。

 信じられない気持ちだった。

 許せない。

 気づくと俺はリリアーヌ様の手を取っていた。

「リリアーヌ様、こちらへ」

 俺は人のいない中庭へとリリアーヌ様を連れて行った。ここならこの時間は人がいないはず。そして少しでも気の利いた言葉でも言えば良いのだが、俺にそんな甲斐性は無く言葉が出てこない。何で俺はこんな時に気の利いた言葉の一つも言ってあげる事が出来ないんだ。

 そんな不甲斐ない俺に、リリアーヌ様は表情を柔らげ笑って見せた。

 なぜあなたはこんな時まで笑っているんだ。

 俺の前でぐらい、素のあなたを見せて欲しい。

 それなのに俺を心配させないよう、泣きそうな顔で笑い続けるリリアーヌ様。その姿がはかなげで、思わず抱きしめてやりたいと思ってしまった。



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