自国最強の騎士団長様は私が守ります。だって私、世界最強ですから!
「リリアーヌ様……俺……」
気の利いた言葉が言えないのならせめて……。
「すみません。リリアーヌ様、少しだけ触ります」
ヘタレの俺はリリアーヌ様を抱きしめることは出来なかったが、毎日思い続けた人の柔らかい両手を包み込む様に握り絞めた。
あなたの気持ちが少しでも和らぎますように。
そう願いながらその手を握り絞めていると、俺の思いが通じたのか、リリアーヌ様が「ありがとう」と微笑んでくれた。
その笑顔を見て俺は自分の思いが抑えることが出来ないほど、膨れ上がっていることに気づいてしまった。
俺はこの人を自分のモノにしたい。
団長から奪ってしまいたい。
グッとリリアーヌ様の手をもう一度握り絞めた時だった。辺りを凍り付かせるような低い声が空気を震わせた。
「そこで何をしている?」
眉間に皺を寄せた団長が、大股でこちらにやって来た。
「ルーニこれはどういうことだ?」
「団長……俺は……」
今まで見たことが無いほど厳めしい顔をして、こちらを威圧してくる団長の姿。無意識に体が後ずさり震えだしてしまう。
これがこの国の英雄、グランツ・サライヤス。
地面にひれ伏しそうになるのを両手を握り絞めて耐えると、ルーニはグランツをにらみ返した。
あんたには絶対に負けない。
俺だってガルレシア王国の王子なんだ。
しばし二人が睨み合っていると、リリアーヌ様が謝罪をしながらその場から走り去っていった。俺はその姿を目で追っていると、団長は「チッ」と舌打ちを打った。
リリアーヌ様、なぜあなたが謝らなければいけないんだ。
悪いのはどう見ても団長の方だろう。
俺はもう一度団長に視線を向けると睨みつけた。
「団長、リリアーヌ様を悲しませることは、俺が許しません」
「貴様……良い度胸だ」
フンッと団長は鼻を鳴らすと、その場から離れた。
途端、俺は地面に尻餅をついた。手と足が震えて力が入らない。
改めて団長は恐ろしい人だと思った。
しかし気づいてしまった……。
リリアーヌ様へのこの思いに、恋心に、もう蓋をすることは出来なかった。