自国最強の騎士団長様は私が守ります。だって私、世界最強ですから!
その様子を回りで見ていた人々が集まり、縄を使って男を縛り上げた。このまま騎士団に受け渡されることだろう。リリアーヌは男が縛り上げられるのを見届けると、人々に気づかれぬようそっと馬車に乗り込んだ。
次の日、王都では昨日の女性についての噂でもちきりだった。蜂蜜色の髪に切れ長の青緑色の瞳、美しく舞うように剣を振るう女剣士。碧青の騎士様と……。
リリアーヌの瞳は普段はぱっちりと開いていて、太陽の光を浴びると宝石のようなペリドット色に輝くのだが、昨日のように伏し目がちに瞳を細めながら不敵に笑うと濃い青緑色へと変わる。リリアーヌの性格はおっとりとしていて、頭の中がお花畑なお嬢様に見られがちだが、剣を手にした瞬間にスイッチが入る。まるで別人かのように人が変わる。それは辺境の地で、戦争や戦闘が繰り広げられる中で、オン、オフのスイッチをいれる事を覚えた結果だった。そうしなければあの戦場で、女性が生き抜くことは出来なかっただろう。
「リリアーヌ様、昨日の事が噂になってしまっていますね」
「あらら……」
「あららでは無いですよ。目立ちたく無かったのでは?」
「仕方が無いじゃない。それにサラが剣をこちらによこしたせいじゃない」
ぷくっと頬を膨らませると、「それは淑女の見せる顔ではありません」とサラに叱られてしまった。
「それにしても王都はもっと治安が良いと思っていたけれど、思っていたより悪いのね」
「そうですね。戦争が終結して2年。復興は進みましたが、戦争のせいで親を失った孤児や、仕事を無くした人々がまだ沢山いますからね」