自国最強の騎士団長様は私が守ります。だって私、世界最強ですから!
*
「キャーー!」
女性の悲鳴に反応したリリアーヌは、大きな体躯の男二人の前に飛び出した。
「止めなさい!」
そう声を張り上げながら、男の繰り出す拳を余裕で受け止める。唖然とする二人をなだめると、ただの親子喧嘩だったことが判明する。人騒がせなと思いながらも、たいした事件では無くホッとした。そんな時、男の叫び声が聞こえてきた。
「碧青の騎士め、兄貴の敵ーー!!」
あれは先日捕らえた賊の……。
確か騎士団に引き渡した賊の子分だ。きっと逆恨みでこうして私の前に現れたのだろう。
はぁーー。
バカだな。
私にかなうはずがないじゃない。
リリアーヌは軽くステップを踏み剣を抜くと、男からの攻撃を簡単にかわしながらクルリと回転し、男の腹部に回しけりを食らわせる。
男から「うぐっ」とくぐもった声が聞こえた。
リリアーヌが振り返ると男は地面に転がっていた。
もうお終い?
そう思いながらフッと苦笑いをした。
それが勝利の微笑みに見えたのか、回りで見ていた人々から歓声が上がる。
それにしても、誰も怪我をしなくてよかった。
転がる男を拘束しようとしたその時、赤く燃えるような赤髪が目の端に映る。
まさか……グランツ様?
混乱し動けずにいたリリアーヌの耳に、低く通る声が聞こえてくる。
「きみは大丈夫か?」
この声はやはりグランツ様……低音で心地よい声に、一瞬我を忘れそうになるが、剣の柄を握り絞めながら必死に自分を保つ。そんなリリアーヌの元に黒フードに身を包んだサラが音も無く現れた。
「リリアーヌ様、私が誘導するので後を付いてきて下さい」
リリアーヌはコクリと頷くと、走り出したサラの後を追った。後ろからグランツ様の「待ってくれ」と言う声が聞こえてきたが、それを無視して走り続けた。
碧青の騎士が私だとバレてはいけないのだから……。
もしバレれば、あのこともバレてしまう可能性が高い。
リリアーヌはサラに誘導されながら、一抹の不安を覚えるのだった。