自国最強の騎士団長様は私が守ります。だって私、世界最強ですから!

 それを見ていた黒フードの男達が、標的をリリアーヌに変え向かってくる。リリアーヌは次々に振り降ろされる剣を一気に受け止め、グッと腕に力を入れた。それから剣を上へと押し上げ、一度後方へ下がった。しかしドレスの裾が足に絡まりリリアーヌはバランスを崩してしまう。

 ドレスって動きにくいのよね。

 リリアーヌは剣を持ち変えると、自分に向かって振り上げた。そして自分の着ていたドレスの太ももから裾に向かって切り裂く。

 これで少しは動きやすくなったわね。

 リリアーヌは目の前の黒フードの男達に向かって自ら飛び込んでいき、剣の打ち合いが始まった。何度もぶつかり合う剣の音が会場内に響き渡る。その様子を逃げ遅れた貴族達が驚愕しながら見守っていた。

 貴族達が驚愕するのは当たり前だ。綺麗なドレスに身を包んでいた少女が、いきなり剣を手にし、騎士を倒した男達を相手に戦っているのだから。

 そんな貴族達の視線に気づくこと無く、リリアーヌは切ったドレスの裾を翻しながら体をクルリと一回転させ、黒フードの男に蹴りを入れた。リリアーヌがクルリと一回転するたびに、ドレスの裾が広がり美しく花が咲いたようになった。それはまるでダンスを踊っているかのように、優雅で美しかった。今、目の前で行われているのは負ければ死ぬという戦闘だというのに、そのことを忘れてしまうほどの優美さがあった。その洗練された動きに見ていた者達は息を呑む。

 その様子を見ていたグランツも驚きを隠せない様子で、目の前で戦う少女を見つめていた。

 その少女が楽しそうに口角を上げ、不敵に笑いながら剣を上から下に振り降ろした。

「さあ、一緒に踊ろうか死の円舞曲(ロンド)

「その台詞……まさか……」

 黒フードの男達が、バタバタと倒されていく中で、一人の男が何かに気づいたかのように後ずさりながら声を荒げた。

「おっ……お前は……まさか……鮮血姫……なぜお前がここにいる?死んだはずでは……」

 その言葉にリリアーヌの肩がピクリと動いた。そしてスッと瞳を細めると、青緑色の瞳が鋭く光り男を見据えた。

「その名で私を呼ぶな」

 



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