自国最強の騎士団長様は私が守ります。だって私、世界最強ですから!
*
鮮血姫……それは戦場で死んだ少女の二つ名。
誰もが知る、この国を救った英雄の一人。
その特徴は蜂蜜の色の髪に青緑色の瞳、青き服に身を包み、美しく剣を振るうという。
それは今、目の前で繰り広げられている事と同じ……。
グランツの後ろでそれを見ていた王太子ドミニクが、楽しそうに笑った。
「くくくっ……鮮血姫の剣技が見られるとはね」
グランツはドミニク殿下の言葉を聞きながらも、黒フードの男達から視線を逸らさずに状況を見る。残る黒フードの男は三人。三人のうち二人を鮮血姫が引きつけているが、一人が鮮血姫の目を盗み王族のいる俺の方へと向かってきた。
ここまで来るか。
俺は剣の柄に手を掛けながら男がこちらに来るのを待った。しかし、男がここまでたどり着くことは無かった。俺が剣の柄を握った瞬間、男に向かって何かが投げつけられた。それは床に落ちガシャンガシャンと音を立てた。グランツが下に落ちた物に視線を向けると、そこには割れた白い皿が……。
これは?
鮮血姫は二人の男と戦いながらも、もう一人の男も逃がさないとばかりに皿を投げてきた。その機転と洞察力と戦いなれた動きに度肝を抜かれる。
鮮血姫はいつの間にか二人の男を片付け、最後の一人となった黒フードの男目掛けて、もう一度白い皿を投げた。行く手を阻まれた男が、一瞬ひるんだ隙に鮮血姫はテーブルの上に乗っり、右足でバンッと踏み込み空中を一回転しながら黒フード男の前に着地した。
ゆっくりと立ち上がった鮮血姫が持っていた剣を、上から下に振り降ろすと、剣についていた血がバラの花びらのように飛び散る。
それを見た俺は惨状と化した、この場にそぐわない言葉を吐いた。
「美しい……」
しかし鮮血姫と黒フードの男の戦いはまだ終わってはいない。ジリジリと黒フードの男を追い込みながら鮮血姫が声を張り上げた。降服するよう説得を試みるのかと思ったがそれは違った。そして鮮血姫から飛び出した言葉は……。
「グランツ様を傷つける者は誰であっても許さない」
そこは王族を守るとか、国を守とかなのではないのか?
何故俺なんだ?
訳が分からず固まっていると、ドミニク殿下が肘で突いてきた。
「だってさ」
だってさとは何なのだ。
混乱する俺の前で、鮮血姫の瞳が青緑色に光る。その眼光に怯えた黒フードの男が声を上げながら、鮮血姫に剣を振り上げた。
「あ゛あぁぁぁっーーーー!」
男の声を合図とするように、鮮血姫も前に飛び出しザシュッと言う布を切り裂く音と共に鮮血が飛び散った。それと同時に鮮血姫の結っていた髪がほどけ、腰まである長い蜂蜜の色の髪が揺れた。頬に飛び散った血を気にする様子も無くその場に立つ鮮血姫。それから鮮血姫は何事も無かったように、剣を右上から左下振り降ろし剣についた血を振り払うと、鞘に収めた。カチャリと剣が鞘に収まる音が響き渡ると、会場が水を打った様に静かになり、全ての視線が鮮血姫に注がれる。
そんな中でいち早く我に返った俺は、黒フードの男達を拘束すべく動き指示を出す。騒ぎを聞きつけ、外を警備していた騎士も集まり、俺はようやく体から力をぬいた。
「黒フードの男達を拘束後、怪我をした者の救助と騎士の手当を!」
グランツの指示に従い、騎士達が動き出す。
その間に、鮮血姫と話をしようと振り返るが、先ほどまでそこに立っていたはずの女性は姿を消していた。
「リリアーヌ……」