モブ未満

「木下くんは好きな人、いる?」
不意に投げかけられた質問は、僕の思考を停止させた。

好きな人に好きな人がいると聞かれた時の正解はなんだ。
恋愛スキルがなさすぎてなにをいえばいいのかわからない。

「え、とあの⋯⋯」
「あ、ごめん。言いにくかったらいいんだ」
あっさりと身を引かれて、それ以上どうこういえるほど僕も積極的では本来ないのだが。
この特殊な状況が僕をなぜか少し積極的にさせた。
「好きな人、います。僕なんかが望むのなんておこがましいけど」
「え? 僕なんかがってそんなことないでしょ」
「こんなスクールカースト下位で地味なメガネの僕なんか眼中に入るわけないんで!」
「そんな堂々と悲しいこというの笑う」
矢束さんがクスクス笑って、頬杖をつく。
「私は、木下くんみたいな人がいいけどな」
さりげなくいわれたその一言は、僕の心を惑わすには効果抜群だった。
「だって今日助けてくれたし昨日のことだって誰にも言わないでくれたし」
これは期待してもいいやつか。いや、慰められてるだけなのかも。

だってスクールカースト最上位のヒーロー役が地味メガネもやしっ子だって?
そんなの、世間は許してくれないだろ。
僕はモブにすらなれない役目で。
いうなれば矢束さんのストーリーでは、顔すらかかれないような役だったはずだ。

「木下くんなら、大丈夫だよ」
矢束さんはにっこり笑って僕にトドメを指した。

こんなに好きな人に褒められることはあるんだろうか。僕があまりにも自分を卑下したから、不憫に思って褒めてくれてるのか。

「ありがとうございます。僕にはもったいない言葉で⋯⋯」
矢束さんの真意がわからなくて謙遜する。

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