女嫌いの天才脳外科医が激愛に目覚めたら~17年脈ナシだったのに、容赦なく独占されてます~
 玲人くんの家に住んでいたことも、彼とダイニングテーブルで一緒に食事したことも、彼と愛し合ったこともすべて夢。それか私の妄想。
 悲しくて、悲しくて、心が張り裂けそうだ。
 なにも言わずに彼の元を去るのが辛い。
 言っても余計に辛かったと思うけど、最後にひと目だけでも彼の顔を見たかったな。
 玲人くんの顔を思い浮かべていたら、不意に親子がそばを通りすぎた。
「今日はハンバーグにしよっかあ」
 母親の言葉に男の子が元気よく返事をする。
「うん、お母さんの作るハンバーグ大好き」
 親子の会話を聞いて、涙が込み上げてきた。
 別に特別なことはない、どこにでもありそうな会話だったけど、とても幸せそうだった。
 昔、私もそんな会話を母とした気がする。
 でも、……もうできない。
 帰る家があるって幸せなことなんだなあ。
 今、私はひとりぼっち。
 とりあえず今日眠れる場所を探さなければいけないが、なんの気力も湧いてこなかった。
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