聖母のマリ子

王子様と結婚

「いや、元の世界もそうなんだけど。じゃあ男性が妊娠したりは‥‥?」

「いえ、そのような話は存じあげません」

 だよねー。

「うーん。なら、妊娠から出産まではどれくらい時間を要するのかな?」

「人によりますが、約半年程でしょうか?」

 え?決して短くはないけど、元の世界とは明らかな違いだ。

「人によるって、なにか違いがあるの?」

「魔力の強さによって胎児の成長速度に違いが出るようです。マリコ様でしたら半年かからずに出産に至るかと‥‥」

 なんと!半年かからずに出産!その気になれば子供増やしたい放題じゃないか!

 そう考えると、体が10歳くらい若返っているのが『1人でも多く子供を産め』という神の思し召しだと思えなくもなくて恐ろしい。

 世界を救うために降臨するのが聖女ではなく聖母だと予言されたということは、私がここに来た理由は子供を産むため?

 でも世界を救う程子供を産むって、どんだけ産まなくちゃいけないの!?いくら魔力ブーストがあってもせいぜい年に2~3人?50歳くらいまで産み続けたとして‥‥100人前後?

 無理無理無理!絶対無理だし、そんなの嫌過ぎるわ!

 そもそも私ひとりが頑張って子供を増やしても、その子供達の相手となる子供が産まれなければ意味がない。そうだ、桃の属性の消失で出生率が激減したなら、私の存在が出生率を上げる可能性もある。なら私が無理して産みまくる必要もないかもしれない。

「マリコ様?どうかいたしましたか?」

「いや、なんでもない。大丈夫」

 一瞬どうにかして脱出を試みようかと考えてしまったが、とりあえず様子をみても平気だろう。

 そう考えた私はちょっと甘かった。

 その数日後、大司教がニコニコ顔でやってきて、私にこう言い放った。

「王太子殿下との結婚が決定致しました」

「へ?」

「半年後に挙式を予定しておりますので、それまでに最低限の王妃教育を受けて頂くことになります」

「王妃教育‥‥」

「王妃教育と申しましてもマリコ様の最重要は子をもうけることです。そう難しく考えることはございません」

「いや、あの、そうじゃなくて。拒否権は?」

「マリコ様、ご心配なさらずとも近々顔合わせの場を設けさせて頂きますので大丈夫です。王妃教育は早速明日から手配しております」

 話が通じない。全く噛み合ってない。間違いない。大司教はとんだくわせものだ。
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