聖母のマリ子
 こちらから話しかけていいかもわからず、結局お互いひと言も交わさぬまま顔合わせが終了した。

 いやいやいやいや、こんなん無理でしょ?

 神殿に戻った私は、着替えを手伝ってくれているジュリアに思いきって質問をした。

「こんなこと聞いて申し訳ないんだけど‥‥この世界の子作りってどんな感じなのかな?」

 ワンチャン、魔法で子を宿すとかなら相手がアレでもどうにかなる。

「男性の性器を女性の性器へ挿入し、男性の精を女性の体内に注ぎます」

「あーーーですよねーーー」

 身も蓋もないジュリアの回答に白目をむく。

「後程、詳細が書かれた閨の教本をお持ち致します」

「あー‥‥うん。ありがとう」

 私の知ってるソレとは多少なり違いがあるかもしれないし、知っておいて損はないだろう。

「ねえ、ジュリア。結婚相手は王太子で確定なの?変更はもう無理?」

「私は詳しいことは存じ上げませんが、恐らくは無理かと‥‥王太子殿下はお気に召しませんでしたか?」

「いや、ジュリアが言ってた通り凄く素敵な人だったよ。でも向こうは完全に私を拒否してるみたいで、あれじゃいくら私がその気になっても仲良くなんてなれないし、そんな相手と子作りしなきゃいけないのは辛過ぎるよね」

 そもそも、ほんの数ヶ月前まで私には夫がいて子供もいたのだ。いくら相手がイケメン王子でも結婚なんてしたくないし、子作りなんて拒否したいというのが本音だ。

 だが私がそれを受け入れなければ、この世界は救われることなく遅かれ早かれ滅亡の危機にさらされるのだという。

 元の世界に戻ることができない私がここで生きていくためには、聖母としての役割を全うしなくてはいけない。選択肢はないに等しい。

 なぜ私がこんな目に合わなきゃいけないの?

「赤ちゃんに会いたい‥‥」

 抱き締めてあげることもできなかった赤ちゃんを想うと涙を止められず、それを隠そうと膝を抱え顔を押し付けた。

「マリコ様‥‥」

 ジュリアがソファーに座る私の前に跪き、優しく背中をさすってくれる。

「ごめん、ごめんね。ありがとう。大丈夫」

 手渡されたハンカチで涙を拭った私は、大きく息を吐いて気持ちを落ち着けた。ここでウジウジしててもしょうがないのだ。例え結果が変わらなくても、できる限り足掻いてみよう。

「もう一度大司教と話してみるよ。近日中に面会できるようにお願いしてもらえる?」

「かしこまりました。すぐに手配致します」

 ジュリアから安堵の表情が見てとれる。優しい彼女に心配をかけるのは本望ではない。

 言いくるめられることがないよう、気合いを入れて大司教に挑もう。
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