聖母のマリ子
 その後私は言われるまま毎日王宮に通い王妃教育を受け、週に1~2度王太子との気まずいお茶会を続けていた。

 王妃教育は着々と進んでいたが、王太子との関係は冷えきったままである。何度か話しかけてみたものの、刺すような視線を向けられただけ。あれからひと月以上経ったというのに、未だに彼の声を聞いたことがない。もはや感動すら覚えるレベルで嫌われているらしい。

 地獄のような30分を終え、午後からの王妃教育へと向かう途中、貴族のお嬢さん方とすれ違った。

「とても仲のよろしいおふたりでしたのに、殿下とフロリアーナ様がお気の毒だわ」

「ええ、本当に‥‥」

 明らかに私に聞かせるための声量で話すふたりを素通りしてそのまま歩き続け、目的地を目指す。

 この手の嫌がらせにいちいち反応していたらきりがない。私はそこまで暇じゃないのだ。

 王宮に通い出してすぐの頃、王太子には子供の頃に決まった婚約者がいたことを知った。

 クリスティアーニ公爵家の次女フロリアーナ嬢。彼女と直接話したことはなく、離れた場所から何度か射殺すような視線を向けられた。遠目からでも輝くような美貌の持ち主だったと記憶している。

 彼女が18歳になるのを待って結婚する予定だったのに、私が現れたことで破談となったらしい。なんなら、やけに準備がいいと思っていた半年後の結婚式は、彼女との結婚のために用意されていたものだった。

 そりゃ怒って当然の話だわ。

 でもこちらから謝るのもなんか違うし、王太子との結婚は私が望んでいるわけでもないからどうしようもない。静観一択である。

 だが周りはそれを許していなかった。さっきのように嫌みを言われるのは日常茶飯事で、直接抗議してくる者や地味な嫌がらせをしてくる猛者もいて、正直うんざりしている。

 どうやら噂ベースでは、王太子に一目惚れした私が強引に結婚を望み、フロリアーナ嬢から婚約者の座を奪ったことになっているらしい。

 本当に勘弁して欲しい。みんなそんなに王宮をウロチョロしてるなら、私と王太子の地獄のお茶会を見学するべきだと思う。冷えきった空気を漂わせてお互いに目も合わせず黙々とお茶をすするだけの時間。代われるものなら代わって!まじで!

 てゆーか!王太子の態度を改めさせるっていう約束はどうなってるのかなー?全然!全く!これっぽっちも改まってないんですけど!?本当、そろそろ我慢の限界だわ。
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