聖母のマリ子
 お茶会で王太子と揉めてから既に一週間が経過していた。王妃教育はずる休みして、ずっと自室に籠っている。当然お茶会もしていない。

 事情を知らされているはずなのに特に接触してこなかった大司教が、籠り続ける私に痺れを切らしたのか面会にやってきた。

「マリコ様、体調はいかがですか?」

「体調は問題ないよ。ずる休みだって知ってるんでしょ?」

 大司教が困ったように眉を下げ微笑む。

「殿下と喧嘩をなさったそうですね」

「喧嘩っていうか‥‥大司教様にお願いしてたのに王太子に全く変化がないから、直接お話させてもらっただけだよ?」

「私からも殿下には何度もお話させて頂いたのですが、どうも聞く耳を持ってもらえず‥‥力不足をお詫び申し上げます」

「いや、直接話したから状況はなんとなく想像できるよ。王太子は元々の婚約者のことで怒ってて、それに関する噂を鵜呑みにしてるから私のことは全く信用できないと感じてる。実際何を言っても信じてもらえなかったしね?」

「その件に関しましては神殿の方でも調べを進めておりますので、今しばらくご辛抱頂ければと‥‥」

「残念だけど、正直王太子とはもう会いたくないし、結婚は絶対に無理だと思う。申し訳ないけど別の方法を考えて欲しいかな」

「マリコ様!どうか、どうか今一度考え直しては頂けませんでしょうか?」

「本当にごめん。王太子とは結婚できないと思う。どうか諦めて下さい」

 王太子との結婚にここまで固執する理由がわからない。理由を聞けば教えてくれるのかもしれないけれど、王太子との結婚を拒否しづらくなるのかもしれないと思うと聞く気にはなれなかった。

「とにかく、今は少しそっとしておいてもらえるかな?しばらくの間王妃教育は休ませて下さい。もちろんお茶会もお断りします」

「マリコ様‥‥」

 大司教はまだ何か言いたげだったけど、これ以上話すことはないと告げて帰ってもらう。

「ジュリア」

「はい」

「王太子との結婚を拒否するのは間違いだと思う?私の我慢が足りないのかな?」

「間違いかどうかは私にはわかりませんが、マリコ様の我慢が足りないとは思いません。マリコ様は十分我慢していらっしゃいます。これ以上の我慢は毒でしかありません」

「そっか。そうだね。ありがとう、ジュリア」

 妊娠してから色々なことがあり過ぎた。辛いことの連続で心と体がバラバラになりそうだった。とっくに限界は越えていて、ただ誰かに慰めてもらいたくて、私はジュリアの優しさにすがった。
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