聖母のマリ子

和解

 大司教と話した翌日から私に専属の護衛が付くことになった。神殿に籠ってる私に護衛は不要な気がするが、拒否しても無駄なのだろう。

 せっかく護衛してくれてるのに部屋に籠りきりなのがなんとなく申し訳なくて、彼が来てから庭の散歩が日課となった。

 話しながらの散歩はいい気分転換になる。

「ブルーノは何歳?24‥‥いや25歳かな?」

「惜しい、28歳ですよ」

「へーいいねー。で?結婚は?」

「なかなかいい出会いに恵まれなくて、残念ながら結婚はまだなんです」

「え?独身なの?ブルーノは筋肉もりもりで格好いいのに、もったいないね?」

「そうなんですよー」

 実際ブルーノは精悍な顔つきをしている。どこぞの王太子と違って優しいし、会話もスムーズで好印象だ。

「もてそうなのに、本当にもったいない。結婚相手に私なんてどうかしら?」

「いやいや、洒落にならない冗談はやめて下さいよー。護衛をクビになっちゃいますよー」

「あはははーですよねー」

 冗談じゃないんだけどなー。

 王太子から謝罪の手紙が届いたので、結婚の白紙撤回を求めて返事を送った。元婚約者の件で再度謝罪の手紙が来たが、面倒なので無視している。不敬なのは今更の話だろう。

 どんなにお願いしても王太子との結婚はなくならない。だったら他の誰かと子作りしてしまえ!と思ったのだが、考えるまでもなく出会いがなかった。ようやく訪れたブルーノチャンスもあえなく撃沈‥‥つらい。

 逃亡の二文字がよぎるが、先立つものがない上に外の様子もわからない。それに魔力を放出し続けているらしい私が一般人に紛れ込むのは難しいのかもしれない。

 このまま大人しく王太子と結婚するしか道はないのだろうか‥‥

 逃げ場のないこの状況にいつまで耐えられるのか、自分でもわからなくなってきていた。

 なんで私がこんな目にあわなくてはいけないのか。私が一体何をしたというのか。いっそのこと何も考えず心を閉ざしてしまえば楽になれるのかもしれない。

「マリコ様?顔色が悪いですね?気分が優れませんか?そろそろ部屋に戻りましょう」

 私の様子がおかしいことに気づいたブルーノが、心配して声をかけてくれた。

「ありがとう。ブルーノは優しいね。やっぱり私と結婚してくれない?」

「もー勘弁して下さいよー」

 そんな軽口を笑顔で言い合いながら部屋に戻るために踵を返すと、すぐそばに従者を連れた王太子が立っていた。

 なんで神殿に王太子がいるの?
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