聖母のマリ子

聖母の秘密

 王太子と和解したことで結婚を拒否する理由はなくなった。ならば、これまで深入りを避けて聞けなかったことを大司教に聞いてみよう。

 和解の報告をする必要もあったので、ジュリアに大司教との面会の手配をお願いした。

 聖母の情報が機密扱いになっていて、それが王太子の力も及ばないレベルで守られている理由がなんなのか‥‥そしてそれがもれたことで何が起こるのか‥‥王太子との結婚に固執する理由も、恐らくそこに繋がっている気がする。

 自分に関わることなのに何も知らずに過ごすのは、なんともいえない気持ち悪さがある。

「マリコ様が殿下と仲直りして下さって本当に安心致しました」

「大司教様の誠意とやらを私が実感する機会はありませんでしたが‥‥まあ約束なので、王太子との結婚を承諾します」

「おお!ありがとうございます!」

「ですがその前に、大司教様に聞きたいことがあって‥‥」

「なんでしょう?」

「以前フロリアーナ様のことを報告しにきてくれた時、重要機密がどうとか言ってたと思うんですけど‥‥それって私に関することなんですよね?あ、時間がもったいないし、誤魔化すとかはなしでお願いしますね?」

「‥‥‥‥はい」

 やはりあまり触れたい話ではないのか、大司教が短く返事をしてそのまま沈黙してしまう。

「どうして聖母のことが機密扱いになってるんですか?聖母のことが広まると何か問題が起きるんですか?自分のことだし、ちゃんと知っておきたいんです。今度こそ、大司教様の誠意を見せてもらえませんか?」

「‥‥‥‥わかりました。私が知っている範囲でお話させて頂きます」

 話が長くなると考えてか、大司教はジュリアに紅茶のお代わりを頼んだ。

「以前お聞かせした聖母様に関する予言のことは覚えていらっしゃいますか?あの予言は内容が国勢に直結するものでしたので即刻機密扱いとなりました‥‥」

 大司教は紅茶を口にして一呼吸置く。

「ですが、実際に出生率が下がりそれが問題視されるまでその存在は忘れ去られ、改めて注視されたのはここ数年のことです。マリコ様が降臨されたのはその最中のこと‥‥マリコ様は瀕死の状態で現れ、その後体は回復したものの長期間お目覚めにならなかった。聖母様に関する情報は予言以外に何もなく、その状態では動きようがありませんでした。マリコ様のことが公に発表されなかったのは、その判断ができなかったからに他なりません」

「私が寝たままだったから、成り行き上機密扱いが継続されたってこと‥‥?」

 大司教は黙ったまま頷いた。
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