聖母のマリ子
 大司教は話を続ける。

「魔力鑑定の結果、マリコ様に桃の属性が認められたことで事態が大きく動くことになりました。以前お話した通り、桃の属性は国の繁栄に繋がる大変稀少な魔力です。その存在が公に知られれば、それを手に入れようとする者が現れるのは必然。瀕死の状態といえる王国においても、マリコ様の存在が必要不可欠なのは明白なこと‥‥他国に奪われることがあってはならず、その身に万が一のことがあればこの国の未来は終わったも同然です。なんとしてもマリコ様をお守りするのが最重要だと判断されました」

「それで、王太子との結婚が決まった‥‥」

「はい。マリコ様が持つ価値を公に広めることなく王国における最大限の守りを得るには、王太子妃という肩書きは実に都合が良かったのです。王太子妃となれば子は王子や姫となり、同じように守られる。それがまさか、逆に聖母様の噂を広める結果になってしまうとは‥‥魔力のことを知られていないことだけが、今は唯一の救いとなっております」

「私の魔力について知っている人はどれくらいいるんですか?」

「鑑定の場にいた私とジュリア、王、それから長年桃の属性について研究を続けている神官の4名です。知る者が少なければそれだけ情報は守られますからね」

 え?それだけ?いくらなんでも少なくない?

「殿下との婚姻を成立させるため、一部の者には詳細を省いた予言の内容と聖母様が降臨されたことについての情報を開示しており、その際多少の憶測が出回ったとは思われます。ですが核心に触れる類いのものは確認されておりませんので、どうかご安心下さい」

「その、桃の属性については何かわかった?」

「残念ながら、マリコ様が魔力を放出し続けていることも含め、新しいことはまだ何もわかっておりません」

「どんな魔力かもわからないし、聖母ってだけで憶測が飛び交うなら、私はこれからずっと狙われる可能性があるってこと‥‥?」

「その可能性は否めません‥‥」

 ええ‥‥そんなの嫌過ぎる‥‥

「もういっそのこと『聖母に害を与えると呪われる』って予言が出たことにしてしまえばいいのでは?私がいないと国が滅ぶなら、ニュアンスは違うけど遠からずな内容だし?」

 大司教が『おまえ、何言ってんだ?』と思ったのを誤魔化すように苦笑いをしている。話を変えよう。

「あー‥‥王太子に詳細を伝えない理由は?」

「魔力以外の情報については殿下さえその気になれば知ることができるようになっていたはずです。魔力のことに関しては時期をみて伝える予定だと聞いておりましたが、王の判断で現在も保留となっているようですね」

 なるほど‥‥今はとりあえずこんなもんかな?あとは追々聞くしかないだろう。
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