聖母のマリ子

私が聖母?

 なんだろう‥‥たくさん寝た気がするのにまだだるい。寝過ぎかな?なんか変な夢をみた気もするし‥‥そうだ!

「赤ちゃんは!?」

 目を開けるとそこは知らない部屋のベッドの上だった。多分‥‥病院じゃない。ホテル‥‥?見たこともない程豪華な部屋だ。布団も枕もふかふかで、明らかに高級だと感じる。

 時計がないので時間はわからないが、窓の外がやたらと明るいので昼間なんだろう。

 ベッドから起きて立ち上がると、力が入らなくて倒れそうになった。

「お目覚めですか?」

 女性の声がして振り向くと、ドアから入ってきたであろうその声の主が慌てて私に駆け寄って体を支えてくれた。

「まだ無理はなさらないで下さい」

 その女性は優しく声をかけながら、私をベッドに戻す。

「喉が渇いていらっしゃいますでしょう?果実水です、どうぞお飲み下さい」

 グラスを渡され、すすめられるままそれを口にする。レモンの爽やかな香りがする。口の中がさっぱりとして美味しい。

「スープのようなものをご用意致します。食べられそうなら、何かお口に入れた方がよろしいでしょう」

 私と同い年くらいだろうか?看護師ではなさそうだけど、そんな雰囲気のあるその人は、呆然としてされるがままの私に構うことなく部屋を出ていった。

 ここは‥‥どこだ?どこからが夢でどこまでが現実なのか判断ができない。この豪華過ぎる部屋で過ごしている今は、もしかしたら夢なのだろうか?目をつぶればまたすぐにでも眠れそうだし‥‥もういっか。寝てしまおう。

「‥‥‥‥ぼ様?聖母様?」

 また女の人の声がする‥‥うるさいな‥‥気持ち良く寝てるんだから邪魔しないで欲しいのに‥‥

 仕方なく目を開けると、さっきの女の人が私を覗き込んでいた。

「聖母様、大司教様がお見えになられました。このままお部屋にお通ししてもよろしいでしょうか?」

 ん?聖母?大司教?この人が何を言ってるのか、何ひとつ理解できない‥‥

「あのー‥‥」

「はい。なんでしょうか?」

「とりあえず、トイレに行きたいんですけど」

「トイレ‥‥ああ‥‥失礼致します」

 私はトイレに案内して欲しいだけなのに、彼女はおもむろに私の下腹部へ手を置いた。

「あの、何してるんですか?」

 わけがわからな過ぎてイライラする。

「これで尿意はおさまるかと‥‥いかがです?」

 え?‥‥あ、確かにおさまってる。

「‥‥ありがとう‥‥ございます?」

「それでは、大司教様をお通し致しますね?」

「ああ、はい‥‥」

 何がどうなってるの?全然わけがわからないんですけど!?
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